• sanyukai

飯豊連峰 飯豊山~北股岳 2016.9.2~5


{9月2日(金)晴れ}

初秋に入っても、まだまだ青い葉をつけた美しいブナ林の急な登山道を、私は息を切らせながら登っていた。

その前夜の9月1日は仕事が終えて帰宅してすぐに出発した。平日の新幹線自由席は通勤のビジネスマンでいっぱいだったが、そんな空気はおかまいなしと言った感じで、大宮駅で買い込んだ焼肉カルビ弁当の匂いを車内にプンプンさせ、ビールをゴクゴクと音を立てて飲みながら夕飯とした。明日から始まる山旅の事を考えながら・・・。

久しぶりのソロ縦走。最近の体調に自信が無かったので行程に余裕をもって4日間の飯豊連峰の旅を計画したが、日数が増えればその分、食糧などの荷物が増し、久しぶりの重荷に不安を抱きながらのスタートだった。

今回は福島県側の御沢野営場から入り、山形県側の飯豊山荘までの縦走計画で、一応、幕営装備で臨んだわけだが、初日の標高差は1100m。

この1100mが今の私にはキツい。しかも、東北でも2000m級の山は暑い!うだる暑さの中、意識朦朧となりながらも途中の峰秀水という水場の美味しい水に救われた。岩清水なのか、岩の隙間からジョロジョロと流れてきている。しばらく水に手を浸けていると痛くなってくるほど冷たくて美味しい水だった。生き返る・・・

(ここが沢だったらな~・・・こんなに暑くないんだろうな~。沢行きたいな~)冷たい水で顔を洗ってクールダウンしているとき、こんな事を思っていたと思う。

その水場からしばらく登って三国岳避難小屋に到着した。ここはテントを張る場所がないので必然的に避難小屋泊になる。小屋代金の二千円を支払うと、銀マットと自炊するときの台としてステンレスのお盆を貸してくれた。夕食に使う乾燥ジャガイモをふやかしている間の時間、景色を見ようと外に出て小屋直下に広がる斜面に目がいった。

避難小屋直下には赤茶色の大スラブが広がっており、遠く向こうからは沢の轟音が聞こえている。私の頭の中にはエメラルドグリーンに輝く釜や瀞を持つ沢が浮かんでいた。

小屋番さんの話だと先日、どこかの山岳会が新人の沢研修で遡行してここの大スラブを上がってきたという。アプローチは私が登り始めた御沢からタカツコ沢に入り、おっかえし沢を経て三国避難小屋に詰めてきたとか・・・。家に帰って来て調べると、飯豊連峰の中では珍しい初級の沢だそうだ。沢はゴーロが多く、さほど登攀要素は無さそうでも最後の大スラブがヘロヘロになったという記録を見た。「最後の大スラブおもしろそ~!!」いつか、タカツコ沢〜おっかえし沢〜大スラブ〜三国避難小屋という沢登りで来たい・・・。そんな、夢を見ながら一日目の日が暮れる。

{9月3日(土)晴れ}

昨日と変わらず朝からクソ暑い。暑さの種類が「蒸し暑い」から「ジリジリと焼ける様に暑い」に変わっていたものの、暑いには違いない。まあ、それも其の筈。稜線歩きになったのと、朝にまったりしすぎて陽が高く昇った頃の出発になってしまったのが原因と思われる。

稜線と言えど、真っ平らではないから、多少のアップダウンがある。日差しから身を守れる様な樹林はなく、背の低いハイマツ帯に風景は変わっていた。日差しを直に受けるという事が結構キツい。荷物をなるべく軽くするために、次の水場までのギリギリの飲み水だけ担いで最小限にしようと思うも、こうも暑いとつい飲んでしまう。

ものすごく暑いが、その対価として目の前に広がる飯豊連峰の稜線は美しかった。青い空の中に根を張る様に大きく突き出たダイグラ尾根は飯豊本山の本体に引けを取らないほどに大きく、存在感があった。そこへ太陽の容赦ない光りに照らされ、岩も緑もキラキラと輝いている。遠く遠く、ダイグラ尾根の向こう側には明日歩く道が見える。人生もこんなに見通しが良ければ苦労はないだろうなぁ。いや、見通しが良くても歩けるかどうかは別問題か・・・。

今日の宿泊は御西小屋。今日は土曜日なので小屋には既に宿泊客が8割くらいいただろうか。空きはまだ十分あったが、こんな天気の良い日はテントでまったりしたかった。

小屋番さんにテントを張らせてもらうお願いをしたら、あっさりとオッケーが出たので早速設営する。テン場は私が一番乗りだったので、大日岳が見えて風が吹き抜けなさそな所を選んだ。小屋番さんに大日は行かないの?と聞かれるも、もちろん行きません。素晴らしい山容の大日岳とサラミをツマミにビールの方が私には魅力的だから。ビールでいい感じに酔って来た頃にバラバラとテントが張られていく。結局、合計4張り。土曜の北アルプス一般道では考えられない少ない数だ。その4張り全員がソロだったという事もあり、自然と集まってきてサミット(宴会)が始まり、そこへ小屋番さんが差し入れを持ってきてくれて、一緒に宴。小屋泊まりの人は早寝でみんな寝てしまったらしく、寂しくなってソロテン泊サミットに参加したらしい。山の話で盛り上がった宴は時間が経つのを忘れる。サミットはガスで月明かりが消える頃まで続いた。結構、フラフラになりながら自分のテントに戻り「二日酔いになりませんように・・」と祈りながらシュラフに入って眠った。

{9月4日(日)}

早朝、周りがテントを撤収する音で目覚めた。昨晩の酒が少し残っているのか頭がボーっとする。外を見ると辺りはガスに包まれていて風が少し強かった。そういえば、夜中は結構な風が吹いていてテントがバタバタ音を立てていたっけ。重い頭をスッキリさせるために二度寝した後、遅い朝食をとり撤収して北股岳方面へ向かう。出発する頃にはガスも消えて昨日同様青空が広がっていた。御西小屋からしばらく歩くと辺りは湿地帯になり、所々にある池が空を写し足元は天空の登山道になる。湿地帯で水が豊富な楽園には当然の様にココの住人がいるようで、登山道に堂々と自分の存在をアピールするように大きい糞がしてあった。比較的新しいので早朝のものだと思う。

人がほとんどいない登山道だったので熊鈴を派手に鳴らしながらアップダウンを何度か繰り返して烏帽子岳、梅花皮岳(カイラギ岳)、北股岳へ登ると今日歩いて来た道が見渡せる。その道を見た瞬間、なんだか熱いものを感じた。ただの縦走だけれど、ちゃんと歩いて来れた安堵感と達成感。青い空を、縦走路を独り占めしているような満足感が全身を包んだ。その満足感をまとったまま山頂を後にして今日の宿泊地の門内避難小屋に着く。ここのトイレはバイオトイレで、用を足した後に自転車のペダルを漕いで便器中の土をかき混ぜるという面白いトイレだった。噂には聞いた事があるが出会ったのは初めてで、せっかくだから漕いでおいた。今日の門内避難小屋は小屋番さんもおらず、客も私一人。そんな所で夕暮れ時に一人、トイレ内のペダルを漕いでいると何だか言いようのない寂しい気分になったが・・・

小屋番さんがいない小屋ではビールも買えないので、持ってきた芋焼酎でやり過ごすが、昼間あれだけ暑いとビールの事が頭から離れない。フリーズドライビールという物が発明されれば良いのに。そして昨日の楽しい宴会とは打って変わっての寂しい晩酌ではあったが、縦走最後の夜なので静寂と真っ暗闇の避難小屋を静かに楽しんで眠った。縦走最終日の明日に備えて。

{9月5日(月)晴れ}

最終日の今日もいい天気だ。天気予報によると午後三時くらいから天気が崩れるという事だったのでそれまでには下山できる時間にあわせて避難小屋を出発した。

梶川尾根は見てすぐにその尾根だとわかる程立派な尾根だった。しかし段々と急な道になり下山するための筋肉に乳酸が溜まり出す。慎重に下っていると右手の梅花皮沢が流れている谷から水が轟々と流れる音が聞こえて来てよく見ると、立派な滝が水を落としていて轟音の主はその滝だった。地形図と山と高原地図を開いて確認すると梅花皮沢へ出合っている滝沢という沢にある梅花皮滝だった。肉眼で三段は確認でき、よ~く目を凝らして見ると落ちる水の塊まで見えた。飯豊の沢は豪雪が作り出した深く大きい谷で圧倒される。いつか飯豊の沢に沢登りで来たい。心の底からそう想い、再び歩き出した。それにしてもこの梶川尾根の急な下りは、なまった身体にしっかりと答えを出す。下山の標高差は約1400m程。膝がゲラゲラ笑い、大腿部の筋肉は自分の筋肉とは思えない程に力が入らなくなり、標高が下がってくる程に蒸し暑くなる。私はヘロヘロで下山した。小国駅までのバスが季節運行で登山口まで来てないので、一つ先の飯豊梅花皮山荘まで1時間の林道歩き。こんなの沢登りのアプローチを考えたら普通な事だと言い聞かせて歩くも、容赦なく照りつける日差しに耐えながらアップダウンのある林道はパンチが効いていて、東北の山の奥深さを教えられている様だった。しかも飯豊梅花皮山荘は温泉の配管清掃&点検で日帰り温泉も休業していたので、4日間汗にまみれた臭い体のまま米沢へ向かう事となった。

4日間のゆっくり縦走は、飯豊連峰の姿を目に焼き付かせ、肌で気温を記憶し、風の匂いを嗅ぎ、沢の気配は耳で感じて、私は飯豊連峰のヒトカケラになれた様な気がする。

記:サクマ

{行程}

9月2日 御沢キャンプ場7:15---三国小屋13:05(小屋)

9月3日 三国小屋6:00---飯豊本山11:08/11:39---御西小屋12:46(幕営)

9月4日 御西小屋8:00---梅花皮岳11:48---北股岳13:13/13:34---門内避難小屋14:25(小屋)

9月5日 門内避難小屋7:00---梶川登山口12:18/13:05---飯豊梅花皮荘14:13


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