近隣の山々では春の色彩が乱舞しているが、私の心はまだ、白い世界に閉じ込められていた。「まだまだ雪山に行きたい・・」そこで自宅から割と近くて、まだまだ雪が残る尾瀬へ行くことに決めた。初めて尾瀬を訪れた時からの憧れである雪原の尾瀬ヶ原を歩き、荒々しい姿の燧ヶ岳が徐々に近づいてきてそれに登る。これがやりたかった。
戸倉駐車場から乗合タクシーに乗り鳩待峠に着くと、大勢の人がいた。この時期は一時的に鳩待峠までマイカーで行ける貴重な時期で、至仏山においては植生保護の為GW明けから初夏まで入山禁止期間となる。そのせいか、ほとんどの人は至仏山で登山やBCを楽しもうとしている人達だった。(前日の夕方には鳩待峠の駐車場は満車になったそう。)スキー板やスノーボードを担いでいる人を羨望の眼差しで見送りながら尾瀬ヶ原方面に進むと、途端に人がいなくなった。
山の鼻を越えて尾瀬ヶ原に出ると更に人の数は減り、ほぼ無人の雪原の尾瀬ヶ原に自分の身が置かれている事に感動した。夏に尾瀬ヶ原を歩くと、「こんにちは低気圧の嵐」に巻き込まれるのが嘘の様だ。
一泊で燧ヶ岳登頂は難しいかもしれないというのは計画段階から頭にはあり、結果から言うと燧ヶ岳は標高2130m地点で敗退を決めた。
2000m付近から勾配がかなりキツくなり、ストックからピッケルに持ち替える。雪は腐り気味でキックステップで慎重に高度を上げていくが、つま先が上手く刺さらない箇所もあったのでアイゼンを装着する。会山行や雪上訓練などで諸先輩方に教わった事や自分で勉強した事を思い出しながら慎重に雪上歩行する。
今回の見晴新道は他のコースと比べるとキツいコースの様で、あまり登る人がいない事と後日知った事だが、昨年は土砂崩れで通行規制があったそうだ。見晴幕営地からの行程では他の登山客に一人も会うわなかった。どうりで、トレースはほぼ無いに等しいのと印のテープもあったり無かったりだった。幸い晴れていたので燧ヶ岳の方向は見失う事はなく山頂めがけて登った。急な斜面を登っている途中、左側の木々の隙間から柴安嵓が見えてきた。その山頂直下は正に壁かと思う程の急勾配。ルートに雪も残っている。登頂予定時間のタイムリミットは一時間あったが、あの斜度を下山するにはかなり時間がかかるのが予測される事と、天気が怪しくなり始めていた事、時間に焦って行動すると滑落するかもしれないという危険性を考え引き返す事にした。
いつもの雪山はベテランの方に、おんぶに抱っこ状態で甘えているが、今回は自分たちの力と判断と経験値だけで歩いたので燧ヶ岳は敗退に終わったが、その失敗が逆に勉強となったように思う。もっともっと、強くなりたい!そして、心が震わされるような雪山に自力で行けるようになりたい!!そう、強く思った山行であった。
{行程}
(4月29日)晴れのち時々雨
鳩待峠(7:00)---竜宮(9:37)---見晴幕営地(10:18/11:30)---見晴分岐(11:45)---2130m地点終了下山(14:38)---見晴幕営地着(16:50)
(4月30日)霧のち晴れ
見晴出発(9:48)---鳩待峠着(13:55)